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大阪高等裁判所 昭和33年(ネ)866号 判決

被控訴人 大平信用組合

理由

控訴人と合併前の被控訴組合信用組合大阪華銀(以下単に被控訴人という)とが、昭和二七年一二月末頃から取引を初め、同二八年一、二月頃から正式に当座貸越契約を締結するとともに、被控訴人のために架空の預金を造成せしめる粉飾預金の一種である所謂「ドレス金融」用小切手を双方間で交換しあつていたこと、右「ドレス金融」の通常の操作は控訴人主張の通りであること、金額の点を除き本件八通の小切手が控訴人の振出にかかるものであること、右小切手の合計金額七七三万五〇〇〇円と外に被控訴人控訴人間の真正な当座貸越額の一部を加算した金八五〇万円につき、被控訴人の求めにより、更めて手形貸付の方法をとるため、控訴人から被控訴人に対し、本件三通の合計金右同額の約束手形の裏書譲渡されたこと、控訴人主張の所謂肩替の結果によるものであるか否かは別として、被控訴人が本件三通の約束手形金(従つて本件八通の小切手金についても同様)全額を含む金二七七〇万円を、訴外三和銀行を通じて受領したのに対し、控訴人が同額の金員を前同銀行に支払つていることは、本件口頭弁論の全趣旨に徴し当事者間に争なく、右「ドレス金融」が本件当事者間に行なわれるに至つた事情及び訴外亭朝彦が被控訴人の代理人として右「ドレス金融」用小切手の授受に当つていたかどうかは別として、その実際のやり方が、いずれも控訴人主張の通りであつたことは、証拠を総合してこれを認定するに足り、控訴人より被控訴人への右約束手形の裏書譲渡にあたり、控訴人は被控訴人に対し、本件小切手が「ドレス金融」用のものである疑のあることを理由に、後日これを明かにすべきことを留保する申入をしたことは、証拠によつて明かである。

そして右「ドレス金融」用のために控訴人から被控訴人に振出交付された小切手については、控訴人は被控訴人に対しては支払義務を負うことなく、仮りにそれが何人かの呈示によつて、被控訴人から現実に支払がなされていたとしても、被控訴人としては、これを控訴人との当座貸越勘定に計上して、控訴人にその支払を求めうべき限りでないことは、右説示の「ドレス金融」の性質上当然であると認むべく、また被控訴人が本件小切手金を含む、本件約束手形金の支払を受けたことは、前述の如く、結局控訴人の財産上の出捐に因つて同額の利益を得たものというほかなく、かつ反対の事情の認められない本件においては、被控訴人のこの利益は、現存するものと認めるのを相当とするから、本件小切手がいずれも「ドレス金融」用として被控訴人に振出交付されたものであると認め得られるにおいては、被控訴人はもはやこの利益を保有すべき正当の理由がなく、従つてこれを不当利得として控訴人に返還しなければならない義務あること当然といわねばならない。そこでまず本件小切手が、控訴人主張の通り「ドレス金融」用のものであつたかどうかが明かにされなければならないのであるが、証拠によると、控訴人において真正な当座取引用として振出した各小切手は、当時の控訴人の会計課長であつた訴外田中統二が必ず小切手金額を印字器を使用しないで手書し、その金額欄の右肩あたりに同人の認印を押捺したこと、同認印は本件記録に編綴している同人の原審並に当審における証人尋問調書の末尾に附加せられている各宣誓書に押捺されているそれと同一のもののみであつて、他のものを使用したりまた金額の記入に印字器を使用したものは全くなかつたこと、「ドレス金融」用小切手はすべて金額未記入のまま振出されていた関係上同人の認印は押捺されていなかつたこと、本件各小切手は、全額一九五万円のものを除き、いずれも金融欄の右肩あたりに庄司あるいは松浦の認印の存在することを認めうるけれども、田中の認印を認めることができず、右除外の小切手の金融欄の右肩には田中の認印があるけれども、同認印は右宣誓書に押捺された訴外田中統二の認印の印影と異なつた形状のものであることは一見して明かであり、かえつて証拠により認めうる被控訴人の利息割引料勘定書に押捺された田中の認印と同一のものであること、また右除外の小切手の金額の記載は印字器を使用してなされており、しかも控訴会社の印字器による青色のものと異つた色であること、等を認めることができ、この事実に、証拠によつて認めうる本件小切手の金額が、訴外亭朝彦の記入にかかるものであること、各証拠と、前段認定の本件「ドレス金融」のやり方が控訴人主張の通り、控訴人において三和銀行伊丹支店宛の小切手と被控訴人宛のそれの両種の小切手を、前者のもの一通に対し後者のそれ数通を、但し金額は前者一通と後者数通の合計額が同額となるように操作することの了解の下に振出していたものの、いずれも金額未記入のままこれを同時に訴外享朝彦を通じて被控訴人に交付するのみで、金額の記入やその他一切の操作はあげて被控訴人の自由に委せていたこと、右亭朝彦君が右交付を受けた後時には二、三日間もこれを同人の許に保管していたこともあること、従つてこれを「ドレス金融」以外の他の目的のために流用する余地のあつたことを認めうること等をかれこれ考え合せると、本件小切手はいずれも控訴人が「ドレス金融」用としてこれを振出し後記説明のような方法で被控訴人に交付したものであることを推認するに難くない。(省略)証拠によつて認めうる訴外亭朝彦は、もともと金融業を営む被控訴人の従業員としてその銀行業務一般を担当職務としていたものであるところ、昭和二八年一月末頃被控訴人からその融資先である控訴人に特に派遣されて控訴人の平取締役に選任せられたものであること、(省略)並びに本件口頭弁論の全趣旨を参酌すると、訴外亭朝彦は、右退職発令の前後を通じ、被控訴人の代理人として控訴人から「ドレス金融」用小切手を受領していたものと認めるのを相当とすべく、本件各小切手が、右亭朝彦において「ドレス金融」用として受取つた後、右目的以外の用途に使用されたことは本件証拠調の結果及び弁論の全趣旨に徴し疑を容れないところである。

そうすると本件小切手金はこれを控訴人に支払わしめることができず、かえつて被控訴人をしてその責に任ぜしむべきものであることは、前段に説明したところから容易に判明するといわねばならない。(後略)

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